アバハウス meets BEGIN 光木編集長 SPECIAL INTERVIEW

VISUAL | アバハウス meets BEGIN 光木編集長 SPECIAL INTERVIEW

VOL_1

この冬、アバハウスがリコメンドするアイテムについて
雑誌『ビギン』の光木拓也編集長にインタビューする、スペシャル企画を二回にわたって展開します。
まずは<アルフレッド・バニスター>から。今季のテーマ「MILITALIA」を象徴する、
古き良きパラシュートブーツを現代的にアレンジした一足と、
洗練されたビジネスマンが冬の悪天候でも快適に履けるキャップトゥシューズについて。
ものづくりの魅力を深堀りしながら、読者目線に立った的確なアプローチで
人気の雑誌編集長による鋭い考察・ご意見をお楽しみください!

INTERVIEW ダブルジップブーツ 1

率直に言って『バニッってるな』

まず、見て頂きたいのが「ミリタリー」をテーマにしたブーツです。第二次世界大戦中のパラシュートブーツを紐解きながら、今のストリートやモードの空気感を合わせて表現しました。本来にはないディテールですが、デザインのアクセントと着脱しやすい機能性に着目して、甲の部分とヒールに朝日ファスナーのスライダーを施しています。第一印象はいかがでしょうか?

光木「率直に言って『バニッってるな』です。今からもう10年以上も前の話になりますが、細身のロングノーズの革靴が世界的なトレンドになりました。その日本におけるパイオニアは満場一致で<アルフレッド・バニスター>でしたよね。その頃の勢いや現象、またそういったテイストに落とし込まれた革靴を『ビギン』では『バニってる』と形容していました。そのくらい影響力があったんです。アバハウスさんが作るものの魅力って、やっぱり着地点だと思うんです。その時代のトレンド感の取り入れ方がうまいな、と。僕の大学生の頃は『おしゃれなモード感=アバハウス』でしたが雑誌編集の仕事を始めて、ものつくりの詳細を見るようになってから、一段とそれを実感しています」

INTERVIEW ダブルジップブーツ 2

男心を掴む適度なミリタリー

ありがとうございます。確かにイメージだけでデザインしてしまうと、中身がない靴になってしまうので、グッドイヤーウエルト製法で質実剛健にまとめ、アメリカン・ビルトライト社のソールを採用しています。ビルトライト社は創業100年を超える老舗で、今でもUSのビブラム社にラバー製品を納入しており、実際に米軍にもソールを供給しています。

光木「ヴィンテージやミリタリーのディテールをウエアに取り入れるのは常套手段ですが、それをブーツや革靴に落とし込むって、なかなか見ない。正直、ハードルが高い発想だな、って思うんです。でもこのブーツには今の気分が盛り込まれていて、『ビギン』の読者にも取り入れやすい。アプローチも着地点も上手いんですよ。男心を掴みながら、ガチのミリタリーじゃない適度な感じに収まっている。これは大事です。あと、いいなと思ったディテールはジップですね。年末の忘年会におすすめ。僕もたまにはブーツを履きますが、日常生活で一番気になるポイントって、やっぱり着脱なんです。それがこのブーツはミリタリーという全体の雰囲気で解決されているのがいいですね」

はい、あえてちょっとイタリア製の牛革のショルダー部分を使って、無骨な雰囲気も狙いました。アッパーのクオリティを保つために素材を切り返していないため、調達できる部材や生産数が限られるのが残念ですが、そこは<アルフレッド・バニスター>の譲れないプライドというか……。

光木「トゥが低くてフラットで上品。さすが靴ブランドの専売特許とも言える吊り込み技術の高さですね。ドレスに寄せた顔になっていると思います。正直、世の中のトレンドを考えると、ブーツのニーズはそこまで高くないかもしれません。でも<アルフレッド・バニスター>の着地点なら、アリだなって思えるのでは!」

INTERVIEW 【透湿防水】メダリオンシューズ 1

クラシックでスマート

では、次にお持ちしたのはビジネスシューズになります。透湿防水のライナーが入っているので、雨の日もオンオフで履いていただけます。防水性と聞くと世の中的にはゴアテックス®社とか使用しているメーカーがブランド化していますが、この靴はあえて無名のメーカーにこだわりました。

光木「個人的には洋服と違って、靴のオンオフ兼用ってないと思うんです。世の中的には、ドレス感覚で履けるカジュアルシューズの人気があるのかな、と思っています。この靴は仕事用ですが、履き心地が軽くて防水って、楽チンで機能を備えているということ。絶対に響くポイントだと思います。でも、こう言った靴ってスーツ業界では割と当たり前になってますよね。1万円台で作っちゃうブランドもある。だから、それ以外で差別化できる価値が必要。そう考えると、この靴の一番の魅力はラスト(木型)の設計だと思います。なんていうか、クラシックでスマート。機能をいろいろ詰め込みながらすっきりとした正統なシルエットって、あまり見ないかも」

INTERVIEW 【透湿防水】メダリオンシューズ 2

日本の靴作りが培ったアイデアと技術

実は、そこに今回の狙いがありました。透湿防水のライナーは袋状に作られており、防水性のあるシートと吸湿して撥水するシートの間に接着のためのシートを挟み込んだ3レイヤー構造になっているんです。でも、それだとボリュームが出すぎてしまい、フォルムがすっきり見えない。都会的に、すっきり見えるように今回はオリジナルでライナーを製作しました。有名なメーカーは作業工程や使用する素材を変えることはできないので、僕たちのわがままを聞いてくれるメーカーを海外で探してお願いしたんです。

光木「面構えが良くてちゃんとした靴となると、これまでは『ビギン』も選択肢が限られていました。でもこの靴には開発までのプロセスが面白くて引き込まれますよね。僕はそこが現代に響くポイントだと思うんですよ。昔はね、つい素材は何だ、工場はどこだ、職人は手作業か、歴史は古いかとか、もの作りの背景に無理やり付加価値を誰もが探していました。でも時代とともに読者の響くポイントは変わっている。今はたとえ生活感があってしみったれていても(笑)、生きたストーリーを求めているんです」

イメージは、丸の内で働く都会の洗練されたビジネスマンです。後は長年靴を作っているからこそ、とにかく疲れなくて歩きやすいと思ってもらいたい気持ちが<アルフレッド・バニスター>には強いんです。もちろん、アウトソールのゴムの軽さと耐久性のバランスなど、細部を挙げればきりがありませんが、一番のこだわりはやはりラスト(木型)です。歩行のしやすさ、つまりローリングの癖をつけるために木型自体に文字の通り捻りを入れました。一歩目を踏み出しをサポートしながら、アーチ(かかとから土踏まずにかけての部分)を極力まっすぐにして足の動きを安定させています。厳密に言うと、歩行を3段階に分けて考えて作った木型です。

光木「履き膨れないように気をつけても、ただ細くてエレガントに見えればいいってワケじゃないですよね。僕は日本人の足型に合っているのが、一番スタイルが美しく見えるし、そうなると当然、スーツやジャケパンの着こなしも選ばない。汎用性があるってことは、デザイナーの視点がそれだけ広いってこと。そこは<アルフレッド・バニスター>ならではの経験値の高さですよね。こちらもさすがしかし、そこには日本の靴作りのトップが培った経験値とアイデアと技術が前提にある。だからこの靴は『ケッサク』だと思いますよ」

光木編集長が提案するコーディネイトはこちら

光木「ちょっと無骨なテイストなので、ワイドなチノやコーデュロイパンツを合わせると今っぽくまとまるのでは。」

光木「せっかく企業努力でクラシックなフォルムを作り上げているから、気をてらわずにベーシックなネイビースーツを合わせたいですね。スーツが王道なところは、Vゾーンでトレンドを表現するのがちょうどいいのでは」

光木拓也 TAKUYA MITSUKI

光木拓也 TAKUYA MITSUKI

1977年生まれ。2000年に株式会社ワールドフォトプレスに入社。『モノ・マガジン』編集部に配属。
2006年に株式会社世界文化社に移籍し、『ビギン』編集部でファッションを担当。2017年10月より編集長に就任。形式にとらわれない自由な発想でコラボ企画を立案するなど、雑誌の枠を超えて多方面で活躍中。横浜、野球、キャンプをこよなく愛している。